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「そうね? あの女、私達を見張ってるみたいな素振りが気に入らなかったわ」
陽子さんは、柏原が屋敷に戻ったのに日本に滞在すると騒いだ。
何を考えているのか知らないけど、私には柏原が一人いれば充分よ。
漆黒の後ろ姿がキッチンに消えていくと、私はカッシーナのソファーに座り読みかけの小説を開く。
投獄された男が出所して、火星への移住を企むSF超大作だ。
以前愛していた女性は結婚をして幸せな家庭を築いていたために……地球には自分の安住の地がないと判断した男は?
という場面まで読んだ。
「本当に面白いわ。この小説」
ワルツのボリュームを抑えて読書に専念する事にする。
キッチンからは良い香りが漂ってきて、とても幸せな気持ちにさせてくれる。