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「……素敵な作品だったわ。まるで夢見心地」
私を寝付かせるなんて、やっぱりお父様とお母様は、偉大な音楽家だと思う。
「お嬢様……夢見心地だったのは、貴女だけでございます。夢に打ち破れた主人公が音楽の世界に、陶酔して自らの命を奪うという、非常にシリアスな作品でございました」
「そう?」
「お嬢様『心理描写とピアノの音色がよく合わさり、思慮深い作品だった』と覚えてください。記者の方々がいらっしゃりますよ」
柏原が私に耳打ちをすると、すぐに男性記者に声をかけられた。
「紫音茉莉果さん?」
「ええ……」
その人が手を上げると、私は一気に、紙とペン、カメラを持った謎の集団に取り囲まれる。
なによ!?
驚く私を、庇うように柏原が一歩前に出る。
「時間がございませんので、質問は一つのみ受け付けます。代表者がお願いします」
柏原は私を見て、小さく頷くと後ろに下がる。
すると更に、強烈なライトが当てられた。
「お嬢様……笑顔での対応を」
柏原が後ろから小声で言うけど、笑えと言われて笑う事は簡単ではないのだ。
生憎、寝起きの私は表情が固まったままだった。