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「大丈夫です。私の書いた原稿を必ず"そのまま"お読みいただければよいのです。ふり仮名もふってあります」
「うん、わかったわ。いってきます」
「いってらっしゃいませ、茉莉果様」
柏原と涙の別れをしてから、私は一人で学園の桜並木を歩く。
この学園は"桜ヶ丘学園"という名の通り、綺麗な桜が咲き誇る。
ここへは、高等部から通っている。
幼稚舎の頃も私はこの学園に在籍していたらしい、初等部から中等部を麗香や竜司と同じ学校で過ごし、またここへ戻ってきた。
なんでそんな経緯になったのかはわからないけど、お母様もおばあ様もこの学園の出身だ。
『音楽』に対して熱心な学園。お母様は皆の憧れの卒業生だ。
私は全然そんな風にはなれないと思うけど
「おはようございます。紫音代表」
「おはよう……"ご卒業おめでとうございます"?」
声をかけてきたのは、胸に『ご卒業おめでとうございます』と書いてあるリボンをつけている人だ。
「うわっ……ありがとうございます! 紫音代表から直接お祝いを言っていただけるなんて嬉しいです!」
お祝い?
この人、『ご卒業おめでとうございます』って名前なのかしら?
「私、今日この学園を卒業したら違う大学に行きます」
「そうですか……ご入学おめでとうございます」
って双子の妹がいたら……面白すぎる…………
ダメダメ、茉莉果
人の名前を笑っちゃいけないわ。
そんな無礼は出来ない。
私は、吹き出したい笑いを必死に堪えた。
「紫音代表と、執事様のお見送りも今日で見納めかと思うと感慨深いです。毎朝、映画のワンシーンの様に素敵でした」
「ありがとう、良い事を教えてもらったわ。"ご卒業おめでとうございます"さん、ごきげんよう」