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「だけど……お父様!」


「どうしたんだい? 茉莉果。私達は茉莉果がそうしたいと望むならば、婚約してもいいと言ったのだ」


「私は、この婚約を望んでない」


「茉莉果ちゃん!?」


竜司が叫んだ。


「ごめんなさい、竜司」


「そうだったのか……でも、一つ問題があるんだよ」


お父様は、眉間にシワを寄せ顎に手を添える。
お父様の悩むときの癖だ。



「柏原くんは何をしているんだ……彼には重要任務を頼んであったのだが、報告がない」


「柏原は竜司の屋敷に連れていかれちゃったのよ!」



「そうか、でも茉莉果の結婚は柏原くんの手腕に任せてあったのになぁ……」


えっ?


「お父さん! それって執事を認めさせれば茉莉果さんとの婚約を認めてもらえるって意味ですか?」


「そうだよ竜司くん、だから柏原くんがいないと……」



────コンコンコン


一定のリズムで
規則正しい三回のノック音。



皆が一斉に扉に振り返る。


「柏原っ!」


「おくつろぎのところ、失礼いたします」


敬愛を示す優しい笑み。
漆黒の髪は艶やかで芸術作品のように美しい私の執事。



「……柏原! 会いたかったわ!」


執事が部屋に入る。
柏原は私とは視線すら合わせずに、目の前を通過した。


そしてお父様とお母様に対して深々と一礼をする。




カナダに来ても、いつもの漆黒の燕尾服に黒いタイ。



「柏原ぁ……」


泣き出してしまいたい。
まさか、本物の柏原に会えるなんて……


なんでこんなに嬉しいの?
心臓が飛び出して打ち上げ花火を打ち上げちゃいそうなくらい嬉しい!




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