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防音室独特の重厚な扉が閉まる。
真っ黒なグランドピアノが占領する部屋。
それ以外には、何もない。
柏原と二人きり……
あれ?
いつもどうしていたかしら?
柏原とは、常に二人でいたのに……
まずはなんて話かけたらいいのかしら?
「かっ……柏原」
その名を呼ぶだけで、精一杯。
呼吸が苦しい。
いけないわ……
私は紫音茉莉果なのに……
「お嬢様」
それなのに、柏原はいつもと変わらぬ様子で微笑む。
たまらなくなって、柏原に飛び付くと涙がボロボロと溢れてきた。
「………かっ……しわばらぁ……っ」
何故こんなに涙が出るんだろう?
執事は、しっかりと私を抱き締める。
「私は、ここにおります。お嬢様」
そして、優しく私の頭を撫で……額に小さく口付けをしてから
また力強く抱き締めてくれた。
私も、必死に柏原の首に腕をまわす。
……貴方に会えないのがこんなに辛い事だと思わなかった。
柏原がまたこうして私を抱きしめてくれたことがこんなにも嬉しい。