SWeeT†YeN



 何か、もっと特別なことを伝えなきゃいけないのかしら?

 柏原にきいてみようかしら……ああ、でも、柏原のことだから馬鹿にしたような態度で「そんなこともお分かりにならないのですか? お嬢様」とか言われちゃうわ。


 頭をフル回転させて、悩んでいるとナツが思いとどまり私に質問をしてくれた。


「いつもこうやって男捕まえて食事してるのか?」


「今日が初めてよ。父と母は海外にいるからディナーは基本的に一人で食べてるわ」


 こうしてデートディナーをしたいと思ったのは、ナツが初めてなの。

 そうね! 可憐な乙女になりましょう。



「一人で寂しいからって初対面の男と食事するのか?」


「私は、あなたに一目惚れしたのよ。車の中からね……」

 そっと涙ぐむ。……ふりをした。


「だから今日の試合も観戦しに行ったし、こうして食事にも招待したの」


「招待? これが? 拉致じゃなくて招待なんだ……っははは」


 真剣な顔から一転して、ナツが笑い出した。


「よかった……笑ってくれた。さぁ、食事しましょ? 氷の器が溶けちゃうわ」


 ナツは、首を傾げながらもさっき買ったばかりのグレーのジャケットの襟を正す。



「わかった。付き合うよ、だけど今日だけな。いつも一人で食事してるなんてお嬢様も大変だな」



 ナツは、意外と優しい。というか、半分私に惹かれはじめたのかもしれない。女優作戦成功ね!


 そして、彼とのディナーは本当に素敵で、私は彼が先程までしていたスポーツが"バスケットボール"だと知り……私が女優の才能を開花させた夜だった。

< 41 / 554 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop