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何か、もっと特別なことを伝えなきゃいけないのかしら?
柏原にきいてみようかしら……ああ、でも、柏原のことだから馬鹿にしたような態度で「そんなこともお分かりにならないのですか? お嬢様」とか言われちゃうわ。
頭をフル回転させて、悩んでいるとナツが思いとどまり私に質問をしてくれた。
「いつもこうやって男捕まえて食事してるのか?」
「今日が初めてよ。父と母は海外にいるからディナーは基本的に一人で食べてるわ」
こうしてデートディナーをしたいと思ったのは、ナツが初めてなの。
そうね! 可憐な乙女になりましょう。
「一人で寂しいからって初対面の男と食事するのか?」
「私は、あなたに一目惚れしたのよ。車の中からね……」
そっと涙ぐむ。……ふりをした。
「だから今日の試合も観戦しに行ったし、こうして食事にも招待したの」
「招待? これが? 拉致じゃなくて招待なんだ……っははは」
真剣な顔から一転して、ナツが笑い出した。
「よかった……笑ってくれた。さぁ、食事しましょ? 氷の器が溶けちゃうわ」
ナツは、首を傾げながらもさっき買ったばかりのグレーのジャケットの襟を正す。
「わかった。付き合うよ、だけど今日だけな。いつも一人で食事してるなんてお嬢様も大変だな」
ナツは、意外と優しい。というか、半分私に惹かれはじめたのかもしれない。女優作戦成功ね!
そして、彼とのディナーは本当に素敵で、私は彼が先程までしていたスポーツが"バスケットボール"だと知り……私が女優の才能を開花させた夜だった。