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「縛らなくても逃げなかったのに。私がどこにも行くところないの分かっててわざと意地悪するんでしょ」


「人聞きの悪い……ですがお嬢様にこの家を荒らされた困るので」



冷たいタオルを、手首にあてているとヒリヒリとしていた痛みが次第になくなっていく。


「荒さないわ。それで、ここはどこなの? 誰の家なのかしら?」


さっきかわされた質問を、もう一度、真っ直ぐ柏原を見つめて質問をする。


彼の漆黒の瞳と、視線が混じわると吸い込まれてしまいそうになる。



均整がとれたシャープな目もと、眉のライン、鼻筋、薄い唇は目眩がしそうな程に綺麗だ。

こうして何度向き合ってみても、その美貌にいちいち頷きたくなってしまう。



私は彼を信じるしかないの。

柏原は絶対私を守ってくれる。



「私の家です。正確には、両親の遺産として相続したものです。売ってしまおうかとも考えていたのですが、形見として持っていてよかった」


明確な答えをくれた柏原。ただの気紛れかもしれない。けど、それが私にはすごく嬉しい。



柏原が、個人的事を訊ねた質問に解答をくれた。





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