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「ああ、そうだ」
閉まった扉がまた開いて、柏原が少し顔を覗かせる。
「なに?」
「お嬢様の携帯電話、その棚の上にございます」
車のキーが置かれていた棚を指差し、柏原はそっと微笑む。
口角が綺麗に引き上げられる、その微笑みは挑発的。
「携帯……」
「今度こそ、行って参ります」
ガチャンと扉が閉まる。
玄関ポーチの階段を降りていく柏原の後ろ姿が見えた。
真っ黒なコートの後ろ姿まで、スラリとしたスタイルで格好良すぎるなんて……卑怯だわ。
窓辺で、手を振ると車の運転席に座る柏原と目が合った。
彼は、手を振るとエンジンをかけ、車を発進させて木々のトンネルへと消えていった。