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 はあ、やっぱり柏原も連れてくればよかった。心細いわ。大失敗。

 ナツとは今日もバスケットボールの話や隼斗の話をした。

 隼斗には穂香ちゃんというとても可愛い彼女がいて、その二人の話をするナツはどこか自慢気だ。


 大切な友達がいるって素敵な事なのね。



 地中海とエーゲ海のどちらが好きか質問してみたら、ナツは「わかんねーよ」とだけ答えた。




 店を出ると辺りは暗く、この奇抜な店に長時間いれたのはナツが一緒だったから……フライドエッグのハンバーグは中々美味しかったけど、喉がカラカラだった。


「家は? どのへん?」

「家って?」

「いや……一応女ひとりで帰すの心配だから」


 月夜に照らされたナツはたまらなくカッコいい。

 少し照れ臭そうに、下を向くナツはちょっと可愛い。

 ナツは、最高だ。

 最初よりどんどん優しくなっていくし、色んな表情も見せてくれる。

 こんなに素敵な男の子には二度と出会えないかもしれないわ。




 だけど…………


「お迎えにあがりました、お嬢様」


「柏原!」


 磨かれた黒塗りの車に、同じく漆黒の燕尾服にタイをしめた柏原が現れるとナツが蜃気楼のように霞んでしまう。


「ナツ様、主人がお世話になりました」


 ナツは柏原に軽く会釈すると「なんだよ、やっぱり執事さんいたじゃん。じゃーな、茉莉果」と言って私の肩を叩いた。



 去っていくナツの後ろ姿。追いかけたいのに、それはできない。

 私は、その場に立ち尽くす。


 


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