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執事様の手当て



────"演劇会"の練習の後は、暗黒執事に捕獲されてパーティー会場を去ることになった。


「疲れた……しかも、お腹すいたわ柏原」


都会の喧騒を滑るように走り抜ける静かな車。



「かしこまりました。屋敷に戻りましたら、すぐに夜食の準備をいたします」


パーティーのゲストに満足な食事もさせないなんて、麗香も落ちたものね。


あの女……本当にいつまでたっても成長しないんだから、嫌になっちゃうわ。


「ふふっ」と笑みを漏らすと、車を運転する柏原とルームミラー越しに視線がぶつかる。

だけど、私は会場に置いてきた浩輔が心配だった。麗香からでは学ぶ事も少ないわよね。

可哀想な事をしたけど、柏原が浩輔のお持ち帰りを拒否したからしょうがない。

念のため……柏原に内緒で、お互い携帯番号を交換しておいて良かったわ。



浩輔は私に連絡してくるに決まっている。



――RRR


スワロフスキーのビーズ刺繍で飾られた私のパーティーバックから、携帯の呼び出し音が鳴り響く。


「浩輔からのメールだわ……『今度お茶でもしよう。また茉莉果ちゃんに会いたいな』」


ほら! 浩輔は"執事のいる"私がいいに決まってるじゃない。

柏原は、ルームミラー越しに怒りを孕んだ視線を寄越す。


「柏原! 腕の見せどころよ」


お茶と聞いて、自分の職務に対する重圧感が不安になり私に怒りの矛先を向けるのね?

大丈夫よ。
柏原はどこに出しても恥ずかしくない執事よ。

自信を持ちなさい。


「茉莉果様、私には全く話の先が見えないのですが?」

何故か惚ける執事。


「何言ってるの? お茶といったら執事、執事といったら柏原でしょう? 素敵なお茶会にしなさい」


柏原はもうルームミラーで私を確認するのは止めて、前方を見据えてハンドルをきる。


ここはカーブが多くて、狭い都心独特の道だけど柏原の運転はどんな時も揺りかごの中にいるみたいね。

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