SWeeT†YeN


────コンコンコン


規則正しい三回のノック音。

約束した訳ではないけど柏原のノック音は必ず三回と決まっていた。

「入っていいわよ」

私の返事を聞いてから、ゆっくりと音もなく開かれる扉。


「失礼いたします。お嬢様、夜食をお持ちしました」

「ありがとう、そこに置いて」


私は読みかけていた恋愛小説に、小花が散りばめられたしおりを挟む。

優しい中年男性と美しい女の甘い恋の話だ。男が「火星人を見た」と嘘をつき逮捕されてしまい、二人は離れ離れになってしまう……話の先が全く見えない話題作の小説だ。


湯気の立つ夜食が、ソファの前にあるガラス製のローテーブルに用意されていく。


珍しいのミルキーピンクのソファーと、白い大理石のローテーブルの組合わせは私がこの部屋で一番気に入っている場所。

自室に籠る時は、読書もお茶も食事もこの場所で済ませてしまう。


ローテーブルに用意された夜食は、ホワイトソースにチーズが溶けたリゾット。


「美味しそうね。ありがとう柏原」


柏原の料理の腕前は、その辺の普通のコックでは敵わないはず。

旨味の引き立て方から、素材の生かし方まで彼は独自のレシピを作り上げて、管理している。


くすみのないシルバーのスプーンでリゾットを口へと運ぶと大好きなチーズの香りが私を楽しませてくれる。


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