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妙に色っぽい唇を指で拭う柏原。



やめなさい、その表情!
心臓が口から出ちゃいそうになるわ!




何が愉しいのか美しい執事は「クッ」と声を漏らした。


吐息がかかる至近距離。
黒髪がさらりと揺れた。




柏原が、酷く人間らしく感じた。

暗黒のサイボーグみたいな執事だけど、ちゃんと息をして熱を持つ人間なんだ。


触れられると、私の心臓が飛び出しちゃうくらいにドキドキさせてくれる一人の男性なんだ…………





「応急措置ですが? 何か問題でもございましたでしょうか、お嬢様。口の中を見せてください」


応急措置?

あーんと開いた口を見て執事は「大丈夫そうですね」と微笑んだ。




応急措置?

ああ、なるほど!


それなら、問題ないわね。
今のは火傷の応急処置だったのね。



主人が怪我をしたなら労るのが執事の仕事だものね。
確かにヒリヒリしていた舌の痛みが少し和らいでいる。



でも胸のドキドキは収まらない。


まさかファーストキスを執事に応急処置で奪われるなんて……
紫音茉莉果、一生の不覚だわ。






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