BLack†NOBLE
この女、立ち直りが早すぎる。転んでもただでは起きないタイプだ。
『まず、どこへ向かえばいい?』
『ナポリ』
また厄介な街だな。しかも、ここ(フィレンツェ)から特急列車に乗っても半日はかかる。
夜通しハイウェイを急げば、朝には着くだろうか……
『行くぞ』
『まずはモーテルよ。ホテルだと人目についちゃうからね』
アリシアの唇が、俺の頬につく。ルージュのキツい香りに嫌悪感すら感じた。
その時────
バックミラー越しに、背後で何かが光る。
ハンドルとシフトレバーを掴み、アクセルとクラッチを荒く踏み込む。
『ギャッ!』
変な体勢でいたアリシアは、ドアへと吹っ飛ぶ。
アリシア側のサイドミラーが、ピシッと音をたてて蜘蛛の巣状にひび割れる。
『サイレント銃だ……アリシア、舌噛みたくなかったら大人しく座ってろ』
『うわっ! 最悪! このミラーの修理費、瑠威が出してよね!』
アリシアを睨みつけ、巧みにシフトチェンジを繰り返す。
この車の、速読メーターは300まである。
大丈夫だ。 多分逃げ切れる。
バックミラーから追っ手を確認すると……相手はライトを上向きにして数台で追いかけてきている。