BLack†NOBLE
9.nove
アリシアの用意してくれた洋服は、しっくりと俺の体に馴染む。蔵人とサイズが一緒だからだろう。襟のない服を着るのは久し振りだ。胸元がVの字になっている。
シャワールームから出ると、アリシアは黒いトレンチコートを俺に投げて寄越す。ファッション性の高いコートに、眉をしかめる。
『フェリーでシチリアに渡るのに、正装してたら怪しまれるわ。その形のコート、今イタリアで大流行してるのよ』
的確な判断だ。蔵人から借りていた服は、十人中十人が高級ブランドのものだと気づくだろう。
馬鹿だと罵ってはいるが、この女の野生の勘は頼りになる。
『フェリーに乗る前に、寄りたいお店があるの。行ってもいい?』
トレンチコートを羽織った俺に、アリシアが瞳を潤ませて(わざとらしいが)抱きついてくる。
尻尾があるなら、はち切れんばかりに振られているだろう。
こういう場合、彼女ならアリシアのように直接的な催促はしない。遠回しな表現で、行きたい場所を指示してくる。
彼女は、男に甘え慣れていない。
『外に出てみないと、何とも言えない。車に傷がつくのが嫌なんだろう?』
もう一度窓の外を確認する。車はカバーを被ったまま、そこにある。通りに怪しい人影はない。
街灯や建物の影を探るが尾行や見張り役はいない。
少し不気味だ…… 昨夜は発砲してまで追いかけてきた……
相手は死体にしてでも俺かアリシアを捕まえたいはずだ。