BLack†NOBLE
最大限の用心はしていくつもりだが、平和ボケしているせいか自信がない。
『うわっ! シャワールームがピカピカになってる!』
『掃除をしておいた』
大した礼ができないが、せめてもの気持ちに簡単な掃除をした。
『アリシア行こう』
アリシアは、不必要に俺の腕に絡み付く。その腕を払うか払わないか少し悩んだが、そのままにしておいた。面倒くさいだけだ。
『エミまた遊びに来るね』
ギシギシと音がする階段を降り、慎重に周囲を見渡した。 建物の入り口には、煉瓦の柱が二本立っている。そこで身を隠すようにして中庭の様子を伺った。
トレンチコートの内側には、蔵人から奪ってきた拳銃が一丁。弾丸が三発装填してある。
ふう……予想外に大きく息を吐き出すと、アリシアは不思議そうに俺を見た。
『車に乗らないの?』
『昨日の追っ手がいるかもしれないだろ?』
アリシアは、俺に腕を絡めたままキョロキョロと周囲を観察する。
『いないよ? 瑠威が追い払ったから、ビビってついて来ないよ。行こう』
『おい!』
アリシアは柱の影から飛び出すと、舞台上のモデルのように軽やかに進む。 車のカバーを豪快に剥がすと、適当に丸めてトランクに突っ込んだ。