BLack†NOBLE
10.dieci
───本日のティレニア海はとても穏やかだ。
俺の気分とは正反対のコバルトブルーの海が広がる。白々しい程の太陽が雲の合間から顔をのぞかせる。
船体には「N」「H」を合わせた紋章がある。この船が、西原造船という世界シェアナンバーワンの造船会社の作った船である証だ。
蔵人の屋敷にお嬢様を置いておくことになるなら、あの西原竜司の屋敷に行かせた方が百倍はマシだ。
アイツは単細胞だが、彼女を慕う気持ちだけは認めてやっている。彼女を幸せにしたいという思いは、俺の次くらいに強いだろう……
西原の御曹子。やはり、ああいう奴こそが彼女には似合っているのかもしれない。
船のデッキの冷たい柵にもたれる、潮風で少しベタついている。そのまま力なく座りこんだ。
『瑠威、大丈夫? 船酔い?』
『うるさい……一人にしてくれ……』
蔵人の所有物の船に浮き足立って乗り込んだのは、このアリシアだけだ。
『大丈夫? スフォリアテッレ食べる? 美味しいよ』
今は、アリシアの馬鹿な会話に付き合う気分じゃないんだ。
騒然としたナポリの街を抜けて、蔵人は『ローザに会いに行く』と言った。
そのまま蔵人の持つクルーザーに乗せられ、俺たちはシチリアに向かうこととなった。