BLack†NOBLE
静まった電話を睨みつけて、後ろを振り返るとそこにはベッドに横たわる彼女がいた。
一人悩んでいるうちに眠ってしまったらしい。
日本からの十二時間のフライトと、婚約の儀を執り行う。それは想像以上に体力を消耗するものだったのだろう。
コットン素材の柔らかなシーツにくるまれて、俺の可愛い婚約者は静かな寝息をたてる。
「困ったお嬢様だ……」
婚約指輪を渡しそびれてしまった。クーポラでわたしてもよかったのだが、物取りのことを考えて部屋に入ってからと用心していたのが仇となる。
揺すってみたが、起きる気配はまったくない。
そもそも、普通、婚約初夜に爆睡なんてするものか?
ビロードの小箱を弄びながら彼女の寝顔をじっと眺めた。
長い睫毛は、クルリとカールしていて、透明感ある白い肌は、艶やかでとても美しい。
柔らかくウェーブする栗色の髪を撫でると甘い微香が、俺を誘う。
頬にキスをしてから、その細い体を抱き寄せると部屋の照明を落とす。
「おやすみなさいませ……茉莉果お嬢様」
明日は、午前の便で日本に帰ろう。
あの屋敷は、とても静かで住みやすいから。