BLack†NOBLE
2.due
───────「はぁ? 嫌よ! 私は帰らないわ!」
結局、昨夜はあれ以降電話が鳴り響くことはなかった。
ただの間違い電話だったのかもしれない。そう思いたい。
白いカーテンを開くと、ベニスの街並みが海に浮かんでいる。
眩しい程に降り注ぐ朝日を受けて、部屋に運ばれたブレックファーストを挟んで向かい合う。
サラダにのったオニオンスライスを、器用にフォークで退けたお嬢様。
けれども、一口食べたホットサンドの中にもオニオンが入っていたようで渋い顔をした。
「お嬢様……こちらのスープはいかがですか?」
トマトと野菜を煮込んだスープ。
彼女は渋い顔をしたまま、スープンですくい口に運ぶ。
「スープは美味しいわ。でも、今日は帰らないわよ……行きたいところもあるし」
「行きたいところ?」
少し堅めのパンを千切ると、その手を止める。
彼女が旅行に来て、行きたい場所を指定してくるなど珍しいからだ。
「そうよ! ほら、あれよ……あの、モアイ像とか見てみたいし……」
実に、疑わしい。
挙動不審になりながら、誤ってオニオンスライスを口に運ぶお嬢様。
「ぎゃっ」と悲鳴をあげてから、スープとパンで必死に流し込んでいる。