BLack†NOBLE
「俺には無理だな。彼女には一番近くにいて、いつでも手の届く位置にいて欲しい」
強い独占欲と嫉妬のドス黒い渦。これも立派な愛情だ。
「瑠威は何も分かってない」
「分かってないのは蔵人だ。フィレンツェに、はやく帰せ。彼女に会わせろ」
蔵人はデッキチェアから立ち上がると、俺を見下ろした。細められた綺麗な形をした漆黒瞳からは、感情を読み取ることができない。
「そういえば、俺も瑠威の顔を見た途端一番近くにいて欲しいと思ったな。
このままイタリアに残ることを、真剣に考えておけ」
その言葉は、背筋が凍りつく程の威力がある。
「六年前は、瑠威の命を守れる確証がなかったから諦めた。今の俺には、それが可能だと確信している」
そして……この歪な愛情の天秤に俺は戸惑い始めていた。