BLack†NOBLE



「畑ばかりね~柏原」


 退屈そうに車窓を眺めるお嬢様。


 フィレンツェまでの移動手段は、列車を選んだ。

 この国のハイヤーは、あまり信用できない。


 特室車両は、小さな部屋のような作りだ。


 座席の見事な刺繍が施された肘掛け。そこに頬杖をついて欠伸をするお嬢様が、何だか微笑ましい。



 サンタ・ルチア駅で購入したチョコレートを差し出す。

 すると、嬉しそうな顔をして箱に並ぶチョコレートを吟味した。



「ミルクチョコも美味しそうだけど……トリュフもいいわね……」


「悩まないでください。全て貴女のものです」


「チョコレートは、一番最初に食べた味が強烈なインパクトなのよ……だから重要なことなの…………うーん」



 それもそうだな。

 彼女は、誰かと何かを奪い合ったりする必要がないのだ。


 全て彼女の意のままに、事は進んでいく。

 きっと今は、俺が何かをアドバイスしても彼女はそれを聞き入れない。



 それを見守るのも幸せだ。


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