BLack†NOBLE
トスカーナ州は、ワインやオリーブや麦の生産高を誇る地域だ。
その品質の良さも、世界中から定評を得ている。
退屈な景色を抜けて、州都へと列車は進む。
赤茶色い屋根の集落が並び、進化する事を止めてしまった都市
───フィレンツェ
荷物を転がしながら列車を降りる。
お嬢様は、軽やかな足取りだ。
その手を捕まえて、指を絡めると何を考えたのか頬を赤く染めた。
「ここは日本とは違い、観光客には少し危険な街だ。絶対に一人にならないようにしてくださいね?」
「わかったわ」
フィレンツェ中央駅は、その名前のとおり街の中心に位置する。
目の前には、サンタマリア・ノヴェッラ教会。
それから、巨大なドゥオモにヴェッキオ宮殿、『ヴィーナスの誕生』が所蔵されているウフィッツィ美術館。
「それで? どこに向かうの?」
「墓地は、ヴェッキオ橋を渡りアルノ河の対岸です。安全な信頼できるハイヤーを探して参ります」
「いいえ、歩くわ」
「ですが、お嬢様!」
確かに歩いていけない距離ではない。
観光客は皆、思い思いに街並みを楽しみながら歩いている。
「柏原が、住んでいた街でしょう? 歩くわ、行きましょ」