BLack†NOBLE
これだから人を愛するなんて嫌なんだ。大切なものをつくると、失う恐さから弱くなる。
自分の気持ちを伝えなければよかった。使用人のくせに主(あるじ)に恋をして、無理矢理手に入れようとするなんてどうにかしていた。蔵人の言う通り、俺らしくなかった。
このまま彼女だけを日本へ帰し、婚約を破棄すれば、彼女は元の生活に戻れる。
冷たい手を強く握り締めた。指先が痺れてうまく力が入らない。
あのムラーノ島のホテルで電話に出て、蔵人の忠告を聞いていたならば…… 今頃日本で、また甘い生活を送っていたのだろうか?
蔵人の愛情は歪だが、確かに存在する。可笑しくて、笑えてくる。
俺は帰らない、と彼女に伝えよう。