BLack†NOBLE
荷物を預け、お嬢様の手を握りしめてフィレンツェの街並みを歩く。
高級ブランド店の前を通過するたびに、バックや靴を購入していくお嬢様のおかげで、アルノ河にたどり着くまでに多大な時間を要した。
「お嬢様、観光でしたら歴史的に価値の高い美術館などをご案内いたしますよ?」
「嫌よ。買い物しながら、お墓参りに行くのよ柏原」
これでは、フィレンツェに一泊するしかなさそうだ。
どこか、適当に良いホテルを探さなければならないだろう。
ヴェッキオ橋の、古い宝石店に吸い寄せられていく彼女を引きとめる。
「お嬢様、これでは日が暮れてしまいます」
「それもそうね……わかったわ。案内して?」
その台詞三十五回聞いた。
本気で墓参りがしたかったのか、買い物がしたかったのか怪しいところだ。
大小様々な色や形のショッピングバックを片手に持ち、片方の手は彼女をしっかりと繋ぎとめる。
物珍しそうに、キョロキョロと辺りをうかがいながら歩く姿は、完璧におのぼりさんだ。
建築物の様式や、その歴史を説明しながら歩いても彼女はあまり興味を示さない。
そんな在り来たりな情報よりも、必死に目に焼き付けている印象だ。
その姿が、とても可愛らしい……
石の道を歩いていると、イタリア人風の男とすれ違った。
「今の人、絶対にマフィアだわ……」
「何故そう思われるのですか?」
「だって、黒いスーツに黒いロングコートを着てたもの、絶対にマフィアよ」
すごい偏見だな……
自分の服装を確認してみる。黒いスーツに黒いロングコート、黒い革靴……
今日は、オフなのでタイは締めていないが彼女の常識では俺もマフィアの一味にされてしまうのだろうか?