BLack†NOBLE


────美しいビザンチン様式のサンティ・マリア・エ・ドナート教会を横目にムラーノを出発する。

 モーターエンジンと小さなスクリュープロペラがついた船は、俺たちを乗せてベニス本島を東から回り込み、カナル・グランデ運河を北上する。




 蔵人は、無言で運河を眺めていた。

 警察から逃れるための、素早い撤去と後始末。慣れたものだ。



『くそっ……』



 一瞬悔しそうにしかめられた顔を見て後悔した。視線を船の床に戻す。

 赤茶けた靴底の跡がついていて、誰の血だろうと考えると気色悪くて、吐き気がした。



「瑠威、撃てなかっただろ?」


「殺してやりたいほど憎んでいたんだけどな……」


「当然だ。俺たちは父親から、沢山のことを学んだ。

 だけど、人の殺し方だけは教わってない」





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