BLack†NOBLE
車は、フィレンツェの街並みを抜けて高台にある一軒家の前で停まる。
築数百年というその家は、白い壁に蔦が這い、オレンジ色の屋根は景観に程よく溶け込んでいる。
車に揺られて、ウトウトとしていた瑠威が目を擦ると父親の大きな手が彼を抱き上げた。
家の中は、リビングルームにダイニングテーブルにL字型のソファー。
小さなパティオがある。二階子供部屋と夫婦の寝室。三階にはティールームに、テラスがある。
物が少なく、壁にかけられているはずの壁掛け時計が床に置かれていて、 食器は梱包されたまま箱に入れられていた。
「フィレンツェの保育園に慣れてきたのに、次はパリの保育園に馴染ませなきゃね」
藍は、閑散とした部屋を見渡した。
でもその言葉は転勤への不安というよりは、とても前向きな明るいものだった。
「藍、大変だったら此処に残ってもいいんだぞ? 週末は必ず帰ってくるし、フィレンツェはとても安全だ」
「ダメよ、この子達には父親が必要よ!」