BLack†NOBLE
1.uno
────婚約の儀を終えると、少し彼女との距離が縮まったような気がする。
気分だけの問題かもしれないが、片時も見つめていたい程に愛しい彼女を 『婚約』という型に縛り付けたのは正解だったかもしれない。
「美味しいわ~」
アコーディオンの音色とともに、イタリア民謡カンツォーネを聴きながらの夕食は、サンマルコ広場から程近いレストランを予約しておいた。
魚介類を、ナイフとフォークで取り分けてお嬢様の皿に盛ると、満面の笑みをみせてくれる。
「これは、なんていう料理なの?」
「アクアパッツァといって、イタリアの伝統料理です。家庭により使われる食材が異なりますが、基本的には魚介を白ワインで煮込んでハーブなどで味を整えて作るのです」
「へぇー、アタマパッドね。カツラみたいな名前なのに、なんて良い香りなのかしら? ふふ、いただきます」
アクアパッツァだ……
イタリア料理を小馬鹿にしているのか?
この小娘は……
「それにしても、柏原はイタリア語はペラペラだし。イタリアに詳しいのね?」
「ええ、十年程住んでおりましたので……」
その話は、今はあまりしたくない。
良い思い出ばかりではない。
あの頃は、今の俺とはかけ離れた荒んだ生活をしていた。