先生と教官室2〜新しい道〜
忘れられない日
――ガチャ
「あっ甲田先生!!いらっしゃったんですねっ。」
「まぁ…今日休みですから。」
ドアを開けた瞬間に聞こえた甲高い声と、キツい香水の香り。
俺の不機嫌な顔を見ても、秋山先生は動じず笑顔を向けてくる。
どんな時でも会いたくないと思っていたが、今日は、今日だけは本当に会いたくなかった。
もし家に一人だったら、俺は間違いなく部屋から出なかった。
秋山先生と会うことを拒み、辛さから逃げていたに違いない。
だから、今日会おうと思えたのは伊緒のおかげ。
俺の様子に不安になりながらも、しっかり受け止めようとしてくれてる。
そんな伊緒の強さが伝わってきたから俺も頑張ろうと思えたんだ。
伊緒が逃げないなら、俺も逃げない。
どれだけ辛くても、しっかりと向き合うよ。
「秋山先生、何しに来たんですか?」
ドアを持つ手を離す事なく、しきりギリギリの所に立ちながら秋山先生の顔を見る。
絶対に家の中には入れさせないようにと、出来るだけの壁を作った。
そんな態度で俺の考えを全て理解したのか、秋山先生の顔からは笑顔が消えた。
「…今日がなんの日か、覚えてますよね?」
笑顔の裏に隠れていた、本当の秋山先生が現れる。
何を考えているのか解らない冷たい目が、俺の身体を突き刺してくる。
「…ふふっ、その顔は覚えているみたいですね。」
「――っっ」
「良かったぁ。忘れられていたらどうしようかと思ってたんですよ?
……私と幸輔君の、赤ちゃんの命日を。」