先生と教官室2〜新しい道〜






冷たい目が更に冷たくなった気がした。





真っ直ぐに俺の目を見る姿からは、憎しみと似たようなものが伝わってくる。






秋山先生は自分の都合で子供を産まないと決め、その為に俺に嘘までついた。






そのはずなのに、何でこんなにも悲しそうなんだ?






「…甲田先生。私、今から公園に花をお供えに行こうと思ってるんです。」







「え……」







「一緒に、行ってくれますよね?」







産まれる前に消してしまった小さな命。






その命に墓を作ってやる事はできなくて、まともな事は何一つしてやれていなかった。






だから、秋山先生が公園に花を供えに行くように、俺も違う場所に花を供えに行っていた。






今日も今から行こうと思っていたんだけど…。







「甲田先生?どうしたんです?」







秋山先生の右手には向日葵の花束が握りしめられている。







夏の暑い日にピッタリな黄色の鮮やかさ。







本当は、一緒に行った方がいいのかもしれない。





二人で手を合わせて謝る事が一番正しいようにも思える。







「…すいません、俺は遠慮しときます。」







だが、それは失うものが無かったらの話し。







守るべきものも何もない、一人だったらの選択なんだ。








「なんで…何でですか?!!」








「俺は俺で決めてる場所がありますから。秋山先生とは行けません。」







「ーっっ!!」







俺の過去の事で、これ以上伊緒を悩ませることはしたくない。





今も不安で一杯なはずなのに、この上一人になんか出来るわけがない。






それに、伊緒と二人で花を供えに行きたいんだ。








< 333 / 379 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop