先生と教官室2〜新しい道〜






俺を呼ぶ声に顔をあげると、首に暖かいものが回った。






身体全身に感じる温もりに、顔の横からする同じシャンプーの香り。






冷え切った内側が暖められていくようで物凄く気持ちが良い。







「大丈夫、もう大丈夫ですよ。」








「い…お……」







「先生が落ち着くまでずっとこうしてますから。」







もう一度力強く抱きしめ直された腕が俺を包んでいく。







俺を包むには小さすぎる身体なのに、心はこんなにもしっかりと包んでくれる。








飛び込んできた伊緒の腰に手を回して自分へと引き寄せる。







夏の暑い室温に伊緒の体温が重なって、更に近くに伊緒を感じる。







「…私何も見てませんから。素直になって下さい。」







体温の温もりと言葉の温もりが不安を安心へと変えていく。







心の底にしまわれていた闇は涙へと変わり、いくつもの筋となって頬を流れていった。








ずっと流れなかった涙。







幸輔の子供を殺してしまったと解った時も流す事はなくて。







きっと、俺はずっと泣きたかったんじゃないかな。






泣いて助けを求めたかったんだ。







「ごめん…ごめんな、伊緒…」








肩に感じる冷たさは伊緒の涙を表していて、俺の言葉に首を振る度それは増していく。







「…ありがとな。」









抱きしめあう腕を離すことなく、ゆっくりと心の整理をした。












< 338 / 379 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop