先生と教官室2〜新しい道〜
俺を呼ぶ声に顔をあげると、首に暖かいものが回った。
身体全身に感じる温もりに、顔の横からする同じシャンプーの香り。
冷え切った内側が暖められていくようで物凄く気持ちが良い。
「大丈夫、もう大丈夫ですよ。」
「い…お……」
「先生が落ち着くまでずっとこうしてますから。」
もう一度力強く抱きしめ直された腕が俺を包んでいく。
俺を包むには小さすぎる身体なのに、心はこんなにもしっかりと包んでくれる。
飛び込んできた伊緒の腰に手を回して自分へと引き寄せる。
夏の暑い室温に伊緒の体温が重なって、更に近くに伊緒を感じる。
「…私何も見てませんから。素直になって下さい。」
体温の温もりと言葉の温もりが不安を安心へと変えていく。
心の底にしまわれていた闇は涙へと変わり、いくつもの筋となって頬を流れていった。
ずっと流れなかった涙。
幸輔の子供を殺してしまったと解った時も流す事はなくて。
きっと、俺はずっと泣きたかったんじゃないかな。
泣いて助けを求めたかったんだ。
「ごめん…ごめんな、伊緒…」
肩に感じる冷たさは伊緒の涙を表していて、俺の言葉に首を振る度それは増していく。
「…ありがとな。」
抱きしめあう腕を離すことなく、ゆっくりと心の整理をした。