解ける螺旋
だけど先生は薄くいつもの笑みを浮かべるだけで、黙っている健太郎の横も通り過ぎた。


「結城君、お邪魔しました」


なんだか場違いな言葉を残した先生に、健太郎は一層眉をひそめた。


「こちらこそ」


何やら物凄く不穏な空気を残して、樫本先生は書架から出て行ってしまう。


「あ、あの……」


この状況で健太郎と二人で残されても、私はどう言い繕えばいいのかもわからない。
こんな空気に耐え兼ねて、呼び止めるべきじゃないとわかっていて、樫本先生の背中に声を掛ける。
だけど先生は振り返りもせずに、書架を離れて研究室すら出て行ってしまう。


この空気を私一人でどうしろと言うんだろう。


「……あの、健太郎……」


重苦しい空気をどうにかしようと必死に声を出したのに、健太郎は私に背中を向けた。


「……遅くなって悪かった。実験始めるぞ」


まるで何事も無かったかの様な態度の健太郎に、


「……うん」


私も説明が出来ない以上、頷くしか出来なかった。
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