解ける螺旋
どうにも気まずい雰囲気の中で、研究は面白い位捗らなかった。
帰りがけに、先生のとこ行かなくていいの? なんて聞かれたせいで、更に重苦しい空気が私達の間を漂うのを感じながら。
私と健太郎は、微妙に隙間を空けて並んで歩く。
あまりに気詰まりな空気と誤解の払拭の為に、勇気を振り絞って健太郎を呼んだ。


「あの……! 本当に誤解しないで。
私、樫本先生とどうこうとかないから!
……さっきのは、えっと……」


言い出したはいいけど、いろんな言葉が浮かんでは消える。
結局何を言っても言い訳にしかならなくて、それ以上にどうして健太郎に言い訳を考えてるのか、自分がわからなくなった。


そんな私に、案の定、健太郎はチラリと絶対零度の視線を向けてからそっぽを向いた。


「……別に。奈月が樫本先生の事好きだろうがなんだろうが、俺には関係ないから。
考えてみれば、お前初対面で逆ナンしてたもんな。
いいんじゃん? 一応幼なじみとして、応援してやるから」

「……」


健太郎に言われた言葉に、何故か少しだけ傷付く。


確かに私が樫本先生とどうなろうと、健太郎には関係ない。
今この場で健太郎に罵られていたら、多分私がその言葉を発していたんだと思う。


だけど。
応援する、と言われて心がチクンと痛むのはどうしてだろう。


何故かわからないけど、私は樫本先生とキスした事を健太郎に知られたくなかったと思っていたし、裏切った様な罪悪感が心を過った。


――良くわからない。


だって私と健太郎はただの幼なじみで、それ以上でも以下でもないはずなのに。
健太郎じゃない他の人が気になる事に、とても申し訳ないと思うのは、どういう感情なのか説明出来ない。
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