解ける螺旋
「わからない……けど。
私は健太郎の事、好きだったはずなんです。
良くわからないけど、そうだったとしか思えないんです!
だけど、どうしてそう思うのかわからない。
今まで私と健太郎の間にはそんな感情、どこにもなかったのに」


俯いたまま、自分でもわからない感情に心を震わせた。
先生はテーブルに頬杖をついて、黙って私の言葉を聞いている。
きっと、すごく呆れた顔をして。


「……私、どうして拒めなかったんだろう。
死にたい位後悔でいっぱいなのに、健太郎にまで見られて……。
先生があんな事しなければ、こんな痛い思いはしなかった。
健太郎の気持ちが離れて行く事もなかったかもしれないのに……」


言っていて、何を言ってるんだろうと思った。


『失恋した』のは私じゃない。
私であるはずがないのに、先生を見ていると私は本当に健太郎に失恋したんだと思えて来る。


完全に八つ当たりだし、健太郎との事なんて勝手な妄想でしかないってわかってるのに。
どう転がっていくのわからない感情は、自分ではもう止め切れない。
そうして、方向性すら見失って行く。


「死にたい位、ね」


樫本先生の低い声が頭の上から降って来た。
その声にフッと冷静になる。


「……おかしいな。
今までに、君が結城君を好きになる過程はなかったはずなんだけど。
……厄介な運命だな。
だけど相沢さん。本気で結城君が好きだったと言い張るなら、俺にそれを納得させればいい」

「な、何が言いたいんですか」


思わず顔を上げると、腕を強く引かれて、私は椅子から立ち上がっていた。


「おいで。本気で死にたいほど後悔してるなら、納得してやるから。
……君の後悔を俺に見せつけてみろ」


そう言って。
樫本先生は私を引き摺る様に、学食から出て行こうとする。


「や、放して……!!」

「みんなが見てるよ」


もう午後の講義が始まっている時間で、向かう先の廊下には人気が少ない。
だけどチラホラと見える学生が、私と先生に奇異の視線を向けているのがわかるから、私もそれ以上喚く事が出来ない。


そのままついて行くのは危険だとわかっていた。
それなのに私は、結局今も抵抗せずにいた。
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