解ける螺旋
人気の無い旧校舎。
先生が入ったのは、その時間どの講義でも使っていない空き教室。
私を教室に引き入れてから後ろ手にドアを閉めた先生に、背筋がゾクッと震えた。


反射的に、逃げなきゃって思った。
先生の横を通り過ぎようとして、私は簡単にその手に捕えられてしまう。


「……!!」


顎をガッチリと掴み上げられて、あっさりと唇を奪われた。
一度ならず、二度も。
頭は真っ白になるけれど、心にちゃんと怒りの感情が宿るのは、私にとっても救いだった。


だけど、昨日と同じ、訳のわからない震えが私の身体を襲う。
そして同じ様に身体から力が抜けて行く。


結局何をどう誤魔化そうと、抵抗出来ない事は自分でも痛い位身に沁みてわかる。
やがて先生はゆっくり唇を離して、私の瞳を試す様に覗き込む。


「死にたい位後悔してるんじゃなかった?
君は本当は結城君が好きで、こうやって俺にキスされて抵抗しなかったところを見られて失恋して。
それで俺を恨んでるんだよね」

「……」


どうして何も答えられないのか。
だけど負けたくなくて、必死に先生の瞳を睨み返した。


「だけどいいかい? そんな事はありえない。
君が結城を好きな訳がないんだよ。その証拠がほら、君の態度だ。
なんでここまでノコノコついて来れたの?
俺は近付いちゃいけない男なんじゃなかった?
『もしも』を語れる多世界解釈は面白い理論だけど、こういう状況で仮定の話は止めろ」

「……意味がわからないです」


言葉を返すのも必死だった。
そして私が後に引けない事位、先生はもう十分わかっているはずだった。


「……わからないなら教えてやる。
君は君の本能の行動を、大人しく認めればいい。
そうやって、身体を心に委ねればいい。
簡単だよ。君が好きなのは結城君じゃない。
君は俺の事が好きなんだ」


耳元で囁かれた言葉に、ビクッと身体が震えた。
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