解ける螺旋
そうして、足が向かった方向を無理矢理変えた時。


「待てよ!」


健太郎の声が聞こえて、私は身体を震わせた。


大学には来てるんだから、見つかって問い詰められる事もあるかもしれないけど、今日はまだ……!


だから咄嗟に逃げ出そうとして、


「……おい、って!」

「放してくれないかな。忙しいんだ」


健太郎の怒気を孕んだ声と対照的な、静かで落ち着いた声が聞こえる。
はっとして声の方向に目を向けると、少し離れた校舎から樫本先生と健太郎が出て来るのが見えた。


颯爽と出て来る樫本先生の後を走って追い掛けて来たって様子で、健太郎は乱暴に先生の肩を掴む。
私が見つかった訳じゃないんだ、とホッとして、だけど慌てて木の陰に隠れた。


「じゃあ、答えろよ!」


健太郎が怒鳴るのも珍しい。しかも先生に向かって。
私も驚いたけど、辺りにいた数人の学生もギョッとしていた。
だけど、そんな二人に目を遣って、関わりたくないというように目を逸らして、足早に去っていく。


「関係ないってなんだよ。
ない訳ないだろ? 先生のせいなんだろ?
奈月が研究室に来ないの」


健太郎の怒鳴った声に、ギクッと身体を強張らせる。


二人を見て予感はしたけど、実際に名前を出されたらドキドキした。
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