解ける螺旋
ここにいるって気付かれてる訳がない。
だけど樫本先生の今の言葉は、私に向かって言われた様な気がして。


――好きじゃなくても。


そう、あの時私だって、その位わかってたのに。
私は、何を今更傷付いてるんだろう。


「それ以上って……。
樫本先生、奈月に何したんだよ……?」


健太郎が大きく目を見開いた。
だけどその先の言葉は飲み込んで、脇に垂らした手を強く握って、拳を震わせる。


「許さない!」

「……っ!」


健太郎が目に見えない位の速さで腕を振り上げて、先生の頬を殴り付けた。
その瞬間私が息を飲んだ音は、すごい衝撃音にかき消される。


殴られた頬を赤くして、だけど先生は、少しよろけただけで顔を上げた。
そして冷ややかに健太郎を睨み付ける。
ゆっくりと溜め息をついた後、瞬時に握った拳を、今度は先生が健太郎に打ち付けた。


「っ……!」


思いがけない力に、健太郎が勢いで倒れ込んだ。
口の端から血を滲ませて、明らかに健太郎の方がダメージが大きい。


思わず駆け寄ろうとして、私は必死に行動を押えた。


健太郎は、強く先生を睨みながら立ち上がろうとした。
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