解ける螺旋
だけど先生の方が一瞬早く、健太郎の胸倉を掴み上げた。


「……いいか? よく覚えておけ。
結城、君は奈月の恋人じゃない」

「……え?」


言われた言葉が想定外だったのか、健太郎が戸惑った目をした。
先生はそれに構わず、健太郎の顔を自分に引き寄せる。


「たとえ今までがどうだったとしても。
君と奈月がどんな過去を歩んでいようと、君は奈月の恋人じゃない。
……勘違いするな」

「……」


先生の底冷えする様な冷たい声に、健太郎が飲まれる様に声を失った。


健太郎はもしかしたら、あの時私に言った奇妙な混乱を思い出してるんだと思う。
健太郎を混乱させた気持ちは間違いなんだと、気のせいだ、勘違いだと。
先生の言葉がまるで暗示でも掛けているみたいに、健太郎の中に沁み込んで行くのがわかる。
その証拠に健太郎はまるで呆けた様に力を抜いて、先生に掴み上げられたまま何の抵抗も出来ずにいる。


「……恋人? 違う……。
でも俺は……。俺は奈月の幼なじみで……」

「そう。ただの幼なじみなんだから、結城がそこまで心配する事じゃない。
特に俺と奈月の事には立入り過ぎだ。
君に関係ない。放っておいてくれないかな」

「……あ……」


混乱している健太郎に、先生はとどめでも刺す様に、最後通牒を言い渡す。
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