解ける螺旋
『優しくてカッコいいお兄ちゃん』と言うのは、私があの誘拐事件以来『あの人』の事を誰かに話す時に使っていた言葉だった。


私を助けてくれた『あの人』を見つけて、私が嬉しそうに駆け寄って行くのはわかるけれど。
意味がわからない。


なんでこんな夢にその言葉が出て来るんだか。
私を助けてくれた命の恩人の『あの人』を、夢の中の私が呼ぶのか。


考えられるのは一つしかない。
私が駆け寄った先には『あの人』がいて、幼い私は『あの人』に殺されたんだと。


ありえない。
そんな夢を見るだなんて、『あの人』にあまりにも失礼だ。


第一『あの人』は私の名前を知らないんだから、私を呼び止めたのが『あの人』だとは考えられないのに。
夢の中の私は確かに、誰かに名前を呼ばれて立ち止まってる。


そして手を伸ばして、何も掴めないままに命を落とす。
私の名前を呼び続ける健太郎の声が、辺りに響き渡って行く。
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