解ける螺旋
今でもリアルに思い出せる、樫本先生の唇の感触。
無意識に唇を指でなぞって、自分の行動にハッと我に返った。
焦って息苦しくなって、頬を火照らせる自分に呆れるし困惑もしてしまう。


確かに抵抗は出来なかった。
だけど、絶対私の意志はそこにはなかった。
なのに何を思い出してドキドキしてるんだか。
まるでウブな高校生みたいな自分に落ち着かなくなって、立っていられなくてその場に座り込んだ。


二週間が過ぎて、私の心に怒りや憎しみはなかった。


普通に考えたらすごく酷い事をされたはずなのに、樫本先生を憎む感情は全く無くなっていて、ただ羞恥心だけが強く残っている。


違う、好きじゃないと言い張りながら、先生を拒めなかった私を、次に会う時、先生はどんな目で見るんだろう。


樫本先生がどう思うか。
そればかり考えている自分が信じられなくて、振り払おうとすればするほど、瞳の奥に浮かぶ先生の姿から必死に意識を逸らす。
その度に、先生に言われた言葉が脳裏を過る。


『君は俺が好きなんだ』


そんな訳がない、と否定しても、私だって子供じゃない。
この感情が何に一番近いか、なんて事はわかる。


あんな事をされたのに、その相手が気になって仕方がないなんて。
これじゃ本当に高校生みたいだよ、と、私は自分に溜め息をついた。
< 133 / 301 >

この作品をシェア

pagetop