解ける螺旋
まるで暗示みたいだと思った。
私は先生の言葉通り、先生を憎む事も忘れて好きになっているのかもしれない、なんて。
一瞬でもそう思う自分を、冗談でも笑えない。


一言で言えば謎ばかりを孕んだ人。
言動の全てがまるで掴めない。
みんなに見せる優しくて天使みたいな樫本先生は偽りの姿だって事位、私にはちゃんとわかってる。


私に見せた冷酷な態度。
みんなには見せない秘めた部分だとわかるから、怖い人だと思うし、今の私にとって危険な人でしかない。
なのにこんなに気になるのは、わからないから、だと思う。


酷い事をしているのに、何かに傷付いている樫本先生の瞳。
いっそ残酷で冷酷で心のない人だって思い込めたら、私は間違いなく樫本先生を憎む事が出来た。


だけどそれだけじゃないから。


酷い人なのに、そうなり切れずに苦しむ姿。
そんな不可解な裏側が、生々しい位に人間らしい。
みんなの前では優しくて頼りになる素敵な先生。
私に向けるちょっと幼さを残す態度も、むしろアンバランスで魅力的な人だと思う。


――そう。
だから、わからないのは、私に向けられる強い負の感情だ。
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