解ける螺旋
健太郎が何を言いたいのかわからない。
だけどあまり固まっていない自分の気持ちを、健太郎に伝える事が出来ない。


「……健太郎には関係ない」


結局そんな言い方しか出来ず、健太郎はやっぱり溜め息をついた。


「そ。じゃあ別にいい。そっちは心配しないで話進めるよ。
とにかく、前提条件だけは理解して受け止めろ。
樫本先生はあるどこかの世界から、時空跳躍して今ここにいる。
目的は奈月の世界への干渉。
多分相当数の『他』世界を創り上げてる。
で、俺と奈月の今とは違う関係も知ってるんじゃないかな」

「う、うん。もしも、だもんね。
……私と健太郎が付き合う世界もあったかもね」


とりあえず話題を樫本先生から少しでも離したくて、健太郎が困ると思った話題を持ち出した。
案の定、健太郎は眉をひそめる。


「……やっぱりムカつくな。
そういうの、勝手に俺の心まで操作されたみたいだし」


さすがに心まで何かされたとは思わないけれど、間接的に心の向く方向は変わったのかもしれない。


他の私は何をきっかけにして健太郎と付き合う事になったんだろう。
そう考えて、もしも健太郎と、という話をした時に樫本先生が物凄く怒った事を思い出した。


私が健太郎を好きになったら困るのか。
そう感じたけど、深く考えると意味深な気がして、それ以上は踏み込んで考えられない。


「で、俺達の近くに居る『今』
先生の量子の影響で、俺達は経験するはずのない他の世界の記憶まで持ってしまった。
他の世界で先生が経験して得た記憶が、俺達に流れ込んだんだって考えていいと思う。
で、奈月。考えて」


健太郎の言葉に思考を戻して、私は少しだけ首を傾げた。
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