解ける螺旋
改めて言われると物凄く怖い。
だけど『他の世界の私』という存在をまだ実感出来ないせいか、樫本先生が本当に危険な人だということを、心のどこかで否定したい気持ちが強かった。


「……健太郎、私ね、なんとなくずっと樫本先生が怖いって思ってた。
もしも本当に健太郎が言う通りの事が起きてるとしても。
他の世界の私を、先生が何度も殺してたとしても。
……今の私にも同じことをするとは限らないよね……?」


確認する様な、迷う言葉を使いながら、私はほとんど自分の言葉に縋っていた。


「まさかと思うけどさ。
この期に及んで先生を信じようとしてる?
本気で先生が好き?」


健太郎の呆れた声に、咎められた様な気分になる。


「……まだよくわからないけど」


健太郎は呆れ果てた顔をして、ハアッと大袈裟な溜め息をついた。
そして私の肩をグッと掴むと、身体を大きく揺さぶった。


「しっかりしろよ!
……その気持ちだってはっきり『本物』かわかんないんだよ。
樫本先生との記憶だって流れ込んでるかもしれない。
先生が傍にいればその分影響されるだろうから」

「え……」


健太郎の言葉に、一瞬凍り付いた。


「その可能性、考えてなかったの?
まあ、奈月が判断すればいいことだけどさ。だけどこれだけは言っておく。
先生は奈月に恋愛感情なんか抱いてない。
当たり前だろ?
何度恋人同士だったかは知らないし、何度殺されたのかも知らないけど。
普通に考えて、大切な人の世界を幾つも創り出すなんておかしいだろ」

「……」
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