解ける螺旋
健太郎の言いたい事はよくわかる。


今の私が無事だとしても、先生は『他の世界の私』を殺して、そして何度もこの世界を繰り返している。
先生にとっては、そうすることで変わる未来が大切なだけ。
今の私自身はチェスの駒みたいなもの。
だから先生は私に執着する。


だけどそこに私への気持ちなんかない。
特別かもしれないけれど、大切な物ではない。
改めてそう言い聞かせたら、胸の奥がズキッと痛んだ。


先生が私を好きじゃない事なんかわかっているのに。
そう言い聞かせると、傷付いてる自分に気付いた。
黙り込んだまま俯いて何も言わない私に、健太郎は小さな溜め息をつく。


「とにかく、俺、もうちょっと調べてみる。
何が目的か知る位の事はしないと。
いいか? このまま安全かはわからないんだし。油断するなよ」


健太郎は足元の缶を拾い上げると、私を残して立ち上がった。
私は健太郎に目線を上げずに、ただ真っ直ぐ前を向いていた。


「先戻る。何かわかったら知らせるから」

「……ありがとう」


ほとんど反射的に返した言葉に、健太郎は黙って研究室に戻って行く。
私は手に持ったままだった缶コーヒーに視線を落とした。


不思議。


ありえないって思ってるはずなのに、今の私は驚くほど素直に健太郎の話を受け止めていた。
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