解ける螺旋
こんな美形、一生のうちにそう何人も出逢うとは思えないのに。
私は彼を知っていた。遠い記憶の中で。


「初めまして。
……あなたは生態学者の相沢夫妻の娘さんですよね?」


健太郎にも向けた笑顔。
握手を終えた手を、彼が私にも差し出して来る。
その手に自分の手を伸ばしながら、


「……初めまして、ですよね?」


私はほとんど無意識にそう呟いていた。


「え?」


それまでの完璧で落ち着いた大人の男の雰囲気が、少しだけ砕けた。
虚を突かれた様に、丸く見開かれた瞳。
少しだけ感情が混じる表情は少し彼を幼く見せて、私は樫本先生に一歩足を踏み出した。
そしてその目の中に私が知ってる光を探そうとして、至近距離から覗き込んでいた。


「あの、私と会った事ありませんか?
私、樫本先生の事知ってるはずだと思うんです」

「え、ええっと……」


私の目が追い詰めた茶色い瞳が、困った様に揺れた。
私はその揺れる感情の奥に、違う光を必死に探そうとして。


「……おい、恥ずかしいから止めろ」


私の言葉を遮った健太郎は、不機嫌な様子で私の肩を掴んだ。
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