解ける螺旋
その手の力が強くてちょっと痛い。
更に、確実に邪魔されたって事にムッとして振り返ると、健太郎は完全に軽蔑した目で私を見下ろしていた。


「ちょっと。恥ずかしいって何よ。私はただ……」

「いや、いくらなんでも近過ぎ。しかもお前の言動。
自分で気付けよ。逆ナンしてる様にしか見えないけど」


私の肩から手をどけながら溜め息をついた健太郎に、私は目を丸くした。


「は? な、ナンパ!?
何言ってるのよ! そんな訳ないでしょっ!?
なんで私が研究室でそんな事……」


慌てて全否定して、私は握ったままだった先生の手をパッと放した。


詰め寄る様に近付けてしまった身体も、言われてみたら確かに物凄く近くて。
そんな位置から目を覗き込んでたなんて、本当にその気があるみたいだと思うと、どうしようもなく恥ずかしい。
なんだか居た堪れない気持ちになる。


「はは。何もそんなに離れなくても。
……でもちょっと残念かな。
僕はナンパでも良かったんだけど。
僕には君と会った記憶はないけど、もし君が本当にナンパしてたなら、嘘ついておいても良かったな」


先生が優しくそう言った。
だけど私を見る視線が何故か妖しくて。
私はすごく意味深な事を言われた気がして、顔を火照らせてしまった。


ど、どういう意味で言ってるんだろう。


そんな目をして言われたら、私じゃなくても、もっと近寄って顔を眺めていたくなるんじゃないかと思った。
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