解ける螺旋
いきなり形勢逆転された気分。
だから言葉の意味を確かめたかったのに、不機嫌な顔をした健太郎に、私は腕を掴まれた。


「先生。こいつ本当に単純だしすぐ図に乗るから、からかうだけなら止めた方がいいですよ。
誤解されたら困る様な相手もいるでしょう? ……先生なら」


どこか刺々しく聞こえる健太郎の言葉、
だけど樫本先生は動じた様子もないまま、困った様に苦笑した。


――これが大人の本当の余裕なのか。


「別に、僕はそんなのいないけど。
結城君だっけ? ……君は困るの?
僕が彼女に誤解させたら」

「困りませんよ、別に」


探る様な口調の樫本先生に、健太郎は即答だった。


「ただの腐れ縁なんで、勘ぐるのは止めて下さい。
……こいつの両親が俺の親父の会社の研究所に勤めてて、しかも超多忙なんで。
一人で居ることが多いから、保護者代わりみたいなもんなんです」

「そうそう。
私だってこんなの相手に誤解されたら、限り無く迷惑です」


そこまで本気で否定しなくても、とチラッと思いながら、私も負けじと言葉を重ねた。
私と健太郎の剣幕に、樫本先生はやっぱり面白そうに微笑んでいる。
そして私達のこんな姿を見慣れている教授は、穏やかに笑いながら、


「仲がいいねえ」


と繰り返す。
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