解ける螺旋
引っ張られた勢いで振り返る。
そこには怒った顔をした健太郎がいた。


「どうしてだよ、奈月!? お前だってわかっただろ?
俺達の周りで何が起きてるか。先生が何をしたか。
……目的はともかく、今の俺達に干渉して来てるのも、お前を殺す為だ。
そう説明したよな?
なのにどうして自分から行くんだよ。
……そんなに樫本先生がいいのかよ」


健太郎は周りも気にせずに私にそう捲し立てた。
傍から見たらカップルの些細な喧嘩としか見えないだろうと思う。
通り過ぎる人達がチラチラと私を健太郎を振り返って行く。


雨の中、傘も差さずに立ち止まっている私達は、多分嫌でもかなり目立つ。
なのに健太郎はそれでも気にしない。
ただ私の腕を握る力を強めるだけだった。


「放っておけば殺されるんだ。
奈月の前で何を言ってるのか知らないけど、お前騙されてる。
……奈月の事なんか好きじゃないんだ。
遊んでるだけだよ。お前だってマジな訳ないはずだから。
……なあ、忘れろよ。
危険だってわかってるんだから近付かなきゃいい。
そしたらお前は殺されないし、俺だってお前を失わずに済む。
……頼むから、忘れてくれよ」


健太郎の声が、最後にはまるで懇願みたいに小さくなっていく。
言い続けるうちに、健太郎は顔を俯けてしまった。
私の腕を掴んだ手が震えている。


今の健太郎が私をどう思っているのかは知らない。
だけど私が殺されるのを『経験』し続けて来た健太郎には、この世界でも私が殺されるかもしれない事は耐えられないのかもしれない。
心に傷を負わせてしまうのかもしれない。


そんな事、私だって望んでない。
健太郎の言う通りに出来たなら。
これ以上愁夜さんに近付かなければ、きっとこの世界は『終わる』
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