解ける螺旋
だけど、と、私は呟いた。
掠れた様な声に、健太郎が少しだけ目を上げた。


「……私が殺されなかったら。
樫本先生の目的が果たされずに終わったら。
きっと先生はまた、『他の世界の私』に出会うんだよね」


健太郎が言葉に詰まった。


言い出したのは健太郎なんだから。
先生の目的が果たされなければ、この世界も切り捨てられて、他の世界が創り上げられる事はわかっているはずなのに。


「ねえ、健太郎。
先生が次に選ぶ世界の私は、今度はどうやって関わって行くんだろうね。
先生にとっての成功って何なんだろう。
それを知らなければ、私達の世界は繰り返されるだけなんだよね」

「……それでも、俺達はこのまま大人になっていくだけだ。
他の世界の事なんか、先生にしかわからないんだから」


苦しそうに呟く健太郎は、本当にそれでいいと思ってる様には見えなかった。


愁夜さんにとっては多世界の一つに過ぎない、今の私達の世界。
だけど他の世界の私は今の私とは違うし、私がそれを知る余地もない。


このまま私が警戒を強めて愁夜さんに近付かなければ、この世界で愁夜さんの成功は訪れないかもしれない。
だけどそうしたら、愁夜さんはいつまでこんな世界を続けるんだろう。
いつになったら終わらせる事が出来るんだろう。


そうしていつまでも絡み続けたまま、緻密な螺旋は永遠に続く。
そうなる事を私は望まない。
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