解ける螺旋
私が入るのを確認してから、愁夜さんがドアを締める。
靴を脱ぐ私の横を通って先に中に入ると、バスルームからタオルを持って来て私の頭に被せてくれた。


「……ありがとうございます」

「軽く拭いたらさっさと脱いで。
乾燥機に入れておけば、二時間もしたら乾くだろうから」


そう言うと愁夜さんは私に背を向けて、自分は寝室に入って行く。


「え。……脱ぐって」


言われた言葉を反芻して、私はつい躊躇した。
さすがにこれだけ濡れた恰好じゃ、家の中に上がり込むのも迷惑だと思うけど。


「何? 今更でしょ。
それに、上がり込むつもりで来たなら、それなりに覚悟はして欲しいもんだけど」

「……」


そんなつもりで来たんじゃない、と言い掛けて、私は結局黙り込んだ。
愁夜さんの言う通りだと思ったから。
私がどういうつもりでここに来たとしても、危険意識が低過ぎるのかもしれない。


それ以上の会話はしない。
私は出来るだけタオルで水分を拭ってからコートを脱いだ。
コートの下の服も意外に湿っていて、いくら暖房のきいた室内の空気でもこのままでは寒い。
だけど着替えも無いのに服を脱ぐ訳にも行かず。


「……」


何も言えないまま腕を擦る様に撫で上げた時、後ろから身体を抱き寄せられた。
思わずビクッとして、だけどその腕の力がどんどん強くなるのを感じて、嫌でもドキドキしてしまう。


「あ、あの、濡れるからっ!!」

「だから脱いで。
昨日もさっきも言ったけど、男の部屋に来るからにはこの位覚悟しておいで」


愁夜さんは私の耳元でそう囁くと、濡れたセーターを簡単に捲り上げた。


「ひゃっ……!」

「大人しくして」


クスクスと面白そうに声を上げながら、愁夜さんの腕は私の身体からスッと離れた。
< 194 / 301 >

この作品をシェア

pagetop