解ける螺旋
愁夜さんが28歳を迎えた『始まりの世界』では、私は誘拐事件の犯人に殺されて発見された。
私の両親は悲しみのあまり、研究の第一線から完全に退いてしまうらしい。


それから年月が過ぎて、愁夜さんが医大生になった頃、真美さんの病状が悪化した。
愁夜さんは必死に彼女を助ける方法を探して勉強を続けるうちに、私の両親が発表した論文に行き着いたと言う。


誘拐事件の少し前。
ストックホルムの学会で両親が発表した論文。
高い評価を受けたその研究の実験データに、愁夜さんが見つけ出したのは真美さんの病気を治す事が出来るかもしれない一つの可能性だった。
だから愁夜さんは、私の両親を捜し出して共同研究を持ち掛けようとした。
真美さんの命のリミットが訪れてしまう前に。


なのに。
やっと捜し出した私の両親は、その数年前に心中自殺してこの世に存在していなかった。


絶望する愁夜さんに追い打ちを掛ける様にして、結局真美さんは亡くなった。
医学を学ぶ意味を失った愁夜さんはまるで抜け殻の様になって。


だけど真美さんの命を諦めきれずに――


それから28歳になるまでの月日の中、時空跳躍を可能にする時間軸と座標を突き止める計算式を編み出した。


何度も実験を繰り返し、だんだんと規模を大きくして行きながら。


――幸か不幸か。


とうとう時空跳躍を成功させてしまった。
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