解ける螺旋
――……


時空を跳ぶ前に相沢夫妻の娘、奈月が誘拐された事件は調べてあった。
夫妻が死に至った状況を考えても、心中の原因は娘の死だとしか考えられなかったから。
だから最初の時空跳躍では、誘拐事件を阻止する事を考えた。
何事もなく娘が無事に成長したなら、相沢夫妻は極普通に研究を続け、その論文で扱った実験データが医療界にどれだけ貢献するか、気付くと思ったから。


だけど現実はそんなに甘くなかった。
奈月を救って自分の世界に戻って来ても、周りは何も変わった様子はない。
真美は始まりの世界と同じ様に17歳で病死していた。


変わっていたのは相沢家の家族が生きていたって事。
そしてその代わり。
その後で結城財閥の息子が誘拐され殺されて、そのトップが変わっていた事。


結城財閥の『現当主』は身代金を用意せず、息子を見殺しにしたと非難を浴びた。
スキャンダルを嫌った分家筋が総掛かりで、いわゆるクーデターを起こして、本家を潰した。
相沢夫妻は研究を続けていたけれど、あの研究の実験データは生かされないままだった。


だから次に跳躍した時には、結城の息子も助けてみた。
だけど真美が亡くなっている現実は変わらない。


何がキーになるのかもわからない。
もしかしたら過去を変えて未来を改変するなんて、到底無謀な話なのかと諦め掛けたりもした。
そうやっていろんな葛藤を抱えて、それでも諦め切れなくていろんな分岐を辿ってみた。
何度も繰り返す度に、どの世界が求める未来に近付くのかわからなくなって、フローチャートも作り始めた。


そうしてやっと。
真美の病気の治療薬の治験が始まる為には、奈月と結城、二人が生きている世界が絶対条件だという事を掴んだ。
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